パナマ文書: サッカーのメッシ選手、その問題は

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試合中のメッシ選手
2015年3月16日、スペイン、バルセロナでアーセナルFCと試合中のFCバルセロナ所属のリオネル・メッシ選手を撮影した。 ゲッティイメージズ

フィールド上のリオネル・メッシ(Lionel Messi)選手は、大きな注目を集める人物だ。メッシ選手(28歳)はアルゼンチン生まれ、13歳でFCバルセロナに入団、17歳でトップチームデビューし、7度のリーガ・エスパニョーラ優勝、4度のUEFAチャンピオンズリーグ優勝に貢献、世界最優秀選手賞FIFAバロンドールを5回受賞している世界でもトップクラスのサッカー選手である。メッシ選手が所属するリーガ・エスパニョーラ・FCバルセロナは1899年に創立され、現在はリーガ・エスパニョーラのプリメーラ・ディビシオンに所属しており同リーグにおいて23回の優勝を記録した。2008年に北京オリンピックで金メダルを獲得、2014年FIFAワールドカップではアルゼンチンの準優勝に貢献した。今シーズン、メッシ選手は26ゲームに出場して22ゴールを決めた。しかし、サッカーのピッチの外で世界で最も有名な選手の一人である同選手が刑務所に行くことになるかもしれないような金融スキャンダルの戦いが始まっている。

租税回避地への法人設立を専門とするパナマの法律事務所から多数の金融取引文書が流出した。「パナマ文書」と呼ばれるこの文書の中に、メッシ選手の名前がタックスヘイブン(租税回避)の利用者として挙がっていた。この事件により、メッシ選手がスペインで22か月間、刑務所に入る可能性がある。これまでのところ、ブランドとしての数百万ドルのコマーシャル契約を結ぶ世界的なスター、メッシュ選手のブランドに大きな打撃までには至っていないものの、それは逮捕、収監に至らない場合に限る。

このスキャンダルは3日、パナマのタックスヘイブンでのペーパーカンパニー設立を数多く手掛けているモサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)法律事務所の内部文書1,150万件(「パナマ文書」)を独日刊紙の南ドイツ新聞(Sueddeutsche Zeitung)が匿名の情報筋から入手し、それに対して国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が1年に及ぶ調査を行い、その結果を100以上のメディアグループに公開したことで露呈した。スペインやフランスなど数か国の当局は4日、脱税疑惑の調査をすでに開始している。タックスヘイブンを利用した金融取引そのものに違法性はないが、これを通じて税務当局からの資産隠し、犯罪から得た収益の洗浄、横領による資金や政治的不都合な資産の隠蔽(いんぺい)などの違法行為が行われる場合がある。

「社会的に非難を受けて、メッシ選手のファンは否定的な反応を下し、ブランドは傷つくだろう。おそらく、これは違反リストのごく一部にすぎないと思う」と米シカゴを拠点とするスポーツブランド会社「ゲームプラン・クリエイティブ(Gameplan Creative)」のトム・オグレディ(Tom O’Grady)パートナー兼チーフクリエイティブオフィサーは述べた。「はっきりとした有罪判決が下りない限り、スポンサーは強く否定するような態度はとらないと思う」と加えた。

2016年2月23日、ロンドン、エミレーツ・スタジアムでの対アーセナル戦でメッシ選手は所属するチームであるバルセロナの得点を祝福した。  ロイター/トビー・メルビリー(TOBY MELVILLE)さん

いわゆるパナマ文書がリークしたモサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)法律事務所からの1150万以上のドキュメントは、オフショア口座の詳細を述べており、このうちのいくつかの事例ではマネーロンダリング、武器や薬物取引、脱税を示唆するものがあった。英国、アイスランド、パキスタンの首相やウクライナ大統領とともに、メッシ選手はパナマ文書の中でパワーブローカー(陰の黒幕)としてトップラインに名前が挙がっていた。オフショア口座そのものは違法ではないが、南ドイツ新聞によるレポートでは、メッシ選手はパナマにいわゆるペーパーカンパニー(あるいはダミー会社)としてメガスター・エンタープライズ(Mega Star Enterprises)を所有していたとしており、同社がスターとしての肖像とともにタックスヘイブンを行っていたと報じた。

今回のパナマ文書とは別件だが、メッシ選手は脱税疑惑で訴追されており、5月に公判が始まる予定である。メッシ選手と父は2007年から2009年にスペインで総額440万ドル(約4憶8,000万円)の3回の脱税容疑で起訴されている。有罪となった場合は、メッシ選手は懲役2年近くとなる可能性がある。

2つの事件に関わってきたメッシ選手の父、ホルヘ・メッシ(Jorge Messi,)さんは、「リオネル・メッシは、関係があると指摘されているいずれの事件にも関わっていない」と声明の中で述べ、メッシ選手がこれまで単に父親のビジネス上の意思決定に従ってきたにすぎないと述べた。また、家族は、申し立てられた脱税の疑惑を指摘したスペインの新聞を告訴する予定とされている。

アルゼンチン出身でサッカーでのポジションはフォワードのメッシ選手は、世界のサッカー選手の中でもトップクラスの報酬を得ており、おそらく唯一のライバルはレアル・マドリード所属のクリスティアーノ・ロナウド(Cristiano Ronaldo)選手だけであろう。雑誌「フランス・フットボール(France Football)」は、メッシ選手が給与、ボーナス、スポンサーからの報酬を合わせて年収6,500万ユーロ(約7,400万ドル、日本円で約81億円)と推定した。また、「フォーブス」紙は、メッシ選手を世界で4位の高収入のアスリートと報じ、報酬総額は7,400万ドル、そのうち2,200万ドル(約24億円)は肖像権などコマーシャル出演などの宣伝活動によるものとしている。メッシ選手にはジレット、ペプシ、最近では中国の大手通信機器メーカーでスマートフォンなどを販売するファーウェイ(HUAWEI)社など世界有数のブランドと契約している。問題が発生していなければ、信頼できる人物として、スーパーヒーローとして、あいるは飲料水メーカーの缶をジャグリングする姿でコマーシャルに登場している。

飲料水メーカーのCMに出演するメッシ選手。  IBT

これまでのところ、彼の主要なパートナーからメッシ選手に対する反発は限られたものとなっている。4日、所属するサッカーチーム、バルセロナは声明を発表し「メッシ選手の家族が公にした反論を信頼している」として同選手とメッシファミリーを支持するという立場を明らかにしている。

ドイツに拠点を構えるスポーツ用品メーカーのアディダス社は、おそらくメッシ選手との結びつきが最も明らかな企業だろう。同社は、米スポーツ用品のナイキ社と契約するロナウド選手に対抗するため、メッシ選手と結びついてきたが、今回の事件に関する態度はまだ表明していない。

アディダス社のスポークスマンは「パナマ文書について事態の進行状況を把握している。しかし、個人の財務問題は、個人による問題であり、管理も個人によって行われる問題である」とIBTimesに声明で述べた。

メッシ選手はものすごく人気が​​あり、アスリート選手の代表であるとスポーツブランドの専門家は述べた。企業は、バルセロナのスターとブランドの間に距離を置く前に、長い時間、熟考することになる。ソーシャルメディア上でもメッシ選手はブラジルサッカーのロナウド選手には及ばないものの世界中から追いかけられているアスリート選手である。IBTimesが入手したデータによると、マーケティングとプロモーションエージェントの「マーケティング・アーム(Marketing Arm)」は消費者の動向を調査しており、(サッカーがそれほど人気でもない)米国でも、メッシ選手は米国の映画スターのドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)さんや、元NFL(ナショナル・フットボール・リーグ: プロアメリカンフットボール)のクォーターバック、ペイトン・マニング(Peyton Manning)選手と、その影響力の大きさで匹敵すると伝えた。

「土曜日にマンハッタンのセントラルパークを歩けば、アメリカンフットボールのペイトン・マニング(Peyton Manning)選手と同様、メッシ選手のユニフォームシャツを着た人を見かける」と米コロンビア大学のスポーツメディアコンサルタントでスポーツマーケティングを専攻するジョー・ファボリート(Joe Favorito)教授は述べた。

メッシ選手のブランドは無敵ではないとファボリート教授は述べた。けれども無敵に近い。そして「上手くいったとしても...彼が世界に戻るために、この危機を食い止めるのは難しい」と同教授は加えた。

メッシ選手のツイッター。  ツイッター

パナマ文書に含まれているサッカー選手はメッシ選手だけではない。2015年、FIFA国際サッカー連盟では巨額汚職事件が起こり、スイスの司法当局が当時会長だったブラッター氏への捜査を開始し、同会長が辞任を表明した。パナマ文書には欧州サッカー連盟(UEFA)元会長ミシェル・ブラティニ(Michel Platini)氏、FIFA新会長ジャンニ・インファンティーノ(Giovanni Vincenzo Infantino)氏といった人物が租税回避行為を行ったと名前が挙がっており、事態を悪化させている。

「サッカー界はこれらの告発や事件で常に汚れてきた。このため、多くの人々が税金逃れをしており、法律に従っていないように感じられる」とミシガン大学でスポーツマネジメントと経済学を専攻し、ブログ「Soccernomics」も共同発信しているステファン・ジーマンスキー(Stefan Szymanski)教授は述べて「メッシ選手だけがこの事件に関与している唯一の選手であるとは思えない」と加えた。

パナマ文書を多くのジャーナリズムに伝えた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、実際に、メッシ選手だけではないとしている。ICIJはパナマ文書の中には過去と現在においてバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリードなど、世界で最も有名プロサッカークラブのいくつかを代表する約20名ほどの知名度の高いサッカー選手の名前が含まれていると伝えた。

パナマ文書は、現実世界に影響を及ぼし始めている。5日、アイスランドのグンロイグソン(Gunnlaugsson)首相はパナマ文書により資産隠しの疑惑が指摘されたため、辞任に追い込まれた。一方、メッシ選手は現在2つのスキャンダルに巻き込まれているとはいうものの、刑務所に収監されない限り、無傷で過ごせるかもしれない。

「おそらく、この件を容赦する向きもあるかもしれない」とブランディングの専門家であるオグレディ氏は語った。しかし「メッシュ選手が有罪で刑務所に収監されれば、それは異なってくるだろう。彼が刑務所の独房からピッチに得点するのは難しいからだ」と加えた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: TIM MARCIN記者「Lionel Messi And The Panama Papers: Why The Barcelona Star Could Be In Trouble」)