なぜ安倍首相は景気刺激策を打ち出すのか

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安倍首相
2015年7月9日、安倍晋三首相は、エコノミスト誌主催のジャパン・サミット2015で講演した。安倍政権は、経済成長の喚起を目指して新たな景気刺激策を計画している。 ロイター/花井 亨(TORU HANAI)さん

数十年に及ぶ景気低迷とデフレに近い状況を打破しようという安倍晋三首相の働きかけが、国内および国際的に複雑に絡み合いながら、日本経済は過去数か月にわたって横滑りしている。アベノミクスとして知られる経済政策のブランドに自らのキャリアを賭けた安倍首相に逆風が吹いている。アベノミクスは、政府支出をさらに増加させ、新たに課税を試みる根拠とも見られている。

「安倍首相が財政上のアクセルペダルからすぐに足を離しそうにない」と政治リスク専門コンサルティング会社ユーラシア・グループのスコット・シーマン(Scott Seaman)シニアアナリストはリサーチノートに書いた。「タカ派が不平を言っている間にハト派が政策決定を支配していく」とシーマン氏は加えた。

最も重要なことは、安倍首相が赤字に目を向けている議員や関係者からの警告を無視したこと、そして消費税10%への引き上げ時期を2017年4月に延期したことである。経済を活性化するために数年を費やした後、より質素に行動すべきだといった圧力もいくつかあった。しかし、消費税を引き上げれば、20年来のデフレとの戦いに打ち勝つために財布を開かせる必要がある日本の消費者を追い払う可能性もある。

日本: 首都 東京 政治形態: 立憲君主制、議会政治 言語: 日本語 人口: 1億2,700万人 国民1人あたりのGDP: 36194ドル  世界銀行

安倍政権は、この夏行われる参議院選挙と5月26日・27日に開催されるG7主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を視野にいれつつ、景気への新たな包括的刺激案を策定している。この計画案の中には、公共事業のスピードアップが含まれている一方で、それ以外の項目として、育児バウチャー制度の支援や介護従事者の賃金引上げが含まれているとシーマン氏は語った。

投資リサーチ会社のSLJマクロ・パートナーズのスティーブン・ジェン(Stephen Jen)氏は、安倍政権の政策はもっと家計支出に集中する必要があると述べた。これまでのところ、安倍政権の政策は経済に弾みをつけるために大企業に対する損失額を下げることを強調してきた。

「アベノミクスは消費者を犠牲にして大企業を支持している。日本では消費者は常に弱い立場にある」とジェン氏は述べた。

日銀による中央銀行改革への最近の対策は、低金利政策として知られる。今年1月29日、日銀は日銀金融政策決定会合でマイナス金利導入を決定し、世界の金融市場に不意打ちを与えた。しかし、それが市場に明確な効果を与えることはなかった。マイナス金利導入によって円はさらに強くなり、資金の流れに一層多くの資金を投入したいとする政策から逆説的な効果をもたらしている。

2014年10月、アベノミクスに基づいて日銀がマネタリーベースを年80兆円に拡大する追加金融緩和を発表した。この発表は事前に予想されていなかったサプライズ緩和であったため、発表後1か月で円安が約10円進み、株価が約2,000円上がるなど、急速に円安株高が進んだ。しかし今年に入ってマイナス金利が発表されると、円は、それまでには見られなかった水準で円高の兆しを見せている。ラフなイメージではあるが、今年だけでも約10%円高の見通しも予測される。円が強くなると「日銀の政策は強力である」という判断が下されるとジェン氏は述べた。また、日銀の四苦八苦に対して、政府は踏み込んで、日本の輸出業者が受け入れない円高を確実にする必要があるといった日本国内での議論を再燃させた。

 

「緊張感をともなって外国為替市場を見守っており、必要に応じて対策を取る」と菅官房長官は先週語った。「政府は、為替レートの過度で無秩序な動きはマイナスの影響を与えると考えている」と加えた。

投資情報会社ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのカール・ワインバーグ(Carl Weinberg)チーフエコノミストは、菅官房長官のコメントは、テーブルの上の円の代わりに、一つの政策達成の手段としての可能性として直接介入を含んでいると述べた。「日本政府が為替市場に介入するかどうか、あるいはどの時点でそうなるのかはわからないが、その可能性はある」とワインバーグ氏は語った。

日本の問題の一部は、米国の連邦準備制度が金利を上げるために、それまでの計画を取りやめたという米国からの流れに関係している。米国での金利がより高くなることで、高利回りのドル建て資産へと資金が流れ、円高への圧力が緩和された。

2015年10月、TPP環太平洋パートナーシップ協定交渉の参加12か国は、医薬品の開発データの保護期間などの難航していた分野で折り合いをつけて大筋合意に至ったと発表した。その後、ぬるま湯につかった日本経済の中で、安倍首相の規制緩和を行うための働きかけは行き詰っている。

米国でのTPP合意も壁にぶつかっている。製薬業界は、バイオとして知られている最先端の医薬品の特許保護が十分改善されないとして、取り扱いに不満を述べている。一方、大手銀行や保険会社は、国境を越えてデータが自由に流通するというTPPのルールがこれらの医薬品の保護を締め出すとしてイライラしている。

また、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)前国務長官は、国務長官時代には基本的にTPPを支持する姿勢を示していた。しかし、ヒラリー氏の元秘書は、米大統領選の指名候補戦の間にヒラリー氏がTPPについて態度の変更を表明することになったと述べた。昨年10月に参加12か国が大筋合意に達した際に、「現時点で把握している内容は望ましくない」として支持しないことを表明した。一方、共和党の指名候補戦でトップを走る不動産王のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏は、米国の貿易政策を厳しく批判して、共和党内に深い亀裂を発生させている。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: CARTER DOUGHERTY 記者「Japan’s Yen Problem: Prime Minister Shinzo Abe Tackling Stronger Currency With New Stimulus Measures」)