英国鉄鋼危機:EUを離脱しても対中貿易では暗雲か

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IBt160415 英国鉄鋼危機
英国リンカンシャー州スカンソープにあるタタ・スチールの工場。英国の鉄鋼危機は、中国との貿易関係に疑問を投げかけている CHRISTOPHER FURLONG / GETTY IMAGES

英国のEU脱退支持派からよく聞かれる議論として、欧州の規制や政治的思惑に拘束されない、独立した英国の方が、自国の国益に従って自由に行動できるというものがある。しかし英国の鉄鋼産業危機は、自由になっても強力な貿易相手と渡り合う際、限界があるであろうことを浮き彫りにした。中国だ。

英国最大の鉄鋼メーカーであるインドのタタ・スチールは今週、英国内の事業を売却すると公式に発表した。このことで数千の雇用が脅かされ、政府の対応をめぐって政治危機が発生している。

タタの英国事業が不振となった要因の一つは、欧州市場における中国の鉄鋼ダンピングの慣習だ。中国国内の需要が減速するに従い、手厚い補助を受けた中国の鉄鋼産業は、欧州における製品のダンピングを強めてきた。8年前には5920万トンだった中国の鉄鋼輸出は、昨年には1億700万トンに伸び、高コストのタタの英国での操業は競争力を失ったと、同社は述べた。

「(中国のダンピングによって)英国・欧州での価格は下がり、英国のメーカーは利益が出なくなってしまいました。政府は中国に対して強く出るべきだと私は思います。いま手をこまねいていれば、後になってひどい目に合うでしょう。これが鉄鋼産業だけの問題で、他の部門には広がっていかないと考えるのは、ちょっと馬鹿げていると思います。鉄鋼は明らかに、英国の防衛、自動車、宇宙産業にとって戦略的に極めて重要であり、鉄鋼がそうなら自動車はどうなんだと考えなくてはなりません。国の介入や国内政策により、中国が少ない量で車を生産できるようになり、将来そうした産業にダメージを与えるという日が来るのでしょうか」と業界団体、UKスチールのガレス・ステイス(Gareth Stace)会長は弊紙に語った。

しかし、IBTimesが取材を行った専門家らは、中国のダンピングが英国の鉄鋼産業に影響を与えたのは事実だが、他にも要因があると指摘する。

「欧州委員会は、産業全体として欧州レベルで生産能力が過剰だと評価している。中国からの輸入がなくとも、この余分な生産能力を調整する必要がある。欧州全体において、鉄鋼産業には、長期にわたる生産性や再編成の問題があり、中国の輸入がその上に付け加わっている形だろう」と言うのはロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのステファン・ウールコック(Stephen Woolcock)助教授(貿易学)だ。

しかし、中国鉄鋼の市場流入により厳しい反ダンピング措置を課そうとするEUレベルの動きに、英国は反対してきた。このことで、政府は国内の鉄鋼産業を中国とともに”カレー味の生贄”としたのだと指摘する専門家もいる。2016年3月現在、EUの中国鉄鋼に対する関税は9%と設定されている。これに対して米国は266%だ。

英国が中国のご機嫌を取りたい理由は明白だ。中国からの外国投資呼び込みに汲々としているからだ。政府高官らの頻繁な貿易交渉や、400億ポンド(6兆2000億円)規模の貿易協定が結ばれた昨年の習近平国家主席の英国訪問における歓迎ぶりなどからも、それは明らかだ。

英国が北京に気を遣って関税に反対したとしても、それは報いられそうもない。今月中国は、英国タタの高級鋼材に46%の関税を課した。英国が世界第2位の経済大国に対し弱い立場にあることを印象付けた出来事だった。

英国がEUから離脱すれば、欧州各国との関係が不透明になる中、対中貿易は英国経済にとってより大きな焦点となり、立場は更に脆弱なものとなるだろうと専門家らは指摘している。

「(EUを離脱すれば)英国の立場は弱くなると思いますが、どちらにせよ英国の立場は弱いのだと私は思います。キャメロン英首相は金を求めて中国を訪問し、このことで立場が強まることはありません。同首相にとって(中国は)、唯一大きな投資を呼び込める源なのです。そして、対中貿易で400億ポンド(6兆2000億円)を得られさえすれば、他のことは2次的なことなのです。これはキャメロン首相の遺産です。彼は最終任期を務めており、もしこの400億ポンドの取引に成功すれば、それを逃しはしないでしょう」とロンドン市立大学のマンモハン・ソディ(Manmohan Sodhi)教授は弊紙に語った。

*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:Mark Hanrahan記者「Brexit: UK Steel Crisis Highlights Future Troubles In Britain’s Trade Relationship With China」)