トウモロコシの種盗む中国人、米国は農業スパイ警戒

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農場

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morguefile/Schick

米アイオワ州北部で農業を営むティム・ブラック氏は、44回目の種まきシーズンを迎える300エーカー(約1.2平方キロメートル)に及ぶ遺伝子組み換えトウモロコシの畑の付近で、見知らぬ車両がうろうろしていないか監視を怠らない。

莫海龍被告を含む中国人7人が、アイオワの農家からトウモロコシの種子を盗み、中国に送り込もうとした疑いで、米司法当局に2013年に起訴されて以来、ブラック氏はこの広大な農作地域の他の農家と同様、警戒を強めてきた。

莫被告が自らの罪状を認めた1月の公判では、中国人13億6000人を含めた世界人口70億人の食に貢献する、先端的な食料生産技術の価値とともに、その脆弱性も露呈した。

こうした事件は、米国の農業セクターに対する経済的及び、国家的安全保障の脅威が高まっていることの証左だとして、米司法当局は農業セクターの幹部や警備担当者に対して、監視を強め、疑わしい活動については報告するよう促している。

しかし、先月30日にアイオワ州を訪問した米司法省の担当者は、こうした泥棒行為を防ぐためのアドバイスを与えることができなかった。これは、コンピューターのネットワークや工場フロアに比べ、開放された耕作地にある農業技術が、いかに脆弱かを如実に示している。

「フェンスといった伝統的な障壁を設けたり、人間がパトロールしたりすることで、何が起きているかをよく把握できるようにすることだろう」。米司法省国家安全保障担当のジョン・カーリン司法次官補はアイオワ州立大学を訪問した際にこう語った。

しかし、農業セクター幹部は、高いコストと、何十万エーカーもの土地を警備することの非現実性を踏まえると、フェンス設置や警備員の配置は実行不可能だと話す。

莫被告にトウモロコシの種子を狙われた米企業の1つ、モンサント(MON.N)の知的財産担当弁護士を務めるトム・マクブライド氏は、コンピューターを防御したり、種子に特許を与えたり、ブラック氏所有の畑などを気付かれたりしないようにすることで、遺伝子組み換え生物(GMO)の技術を保護していると語った。

同氏はフェンスや警備員といった物理的な障壁を設けることは検討していないという。

米連邦捜査局(FBI)と司法省は、莫被告が2011年5月にアイオワ州の畑で地面を掘り起こしているのを発見して以来、農業セクターでのスパイ活動が活発化していると指摘。FBIによれば、過去2年間、米企業や政府系研究機関、大学などすべてが標的となっている。

捜査当局者は、中国政府と莫被告グループとの関連性を立証することはできなかった。だがこの事件は、中国やその代理人が行っていると米国が主張する、経済的なスパイ活動や貿易機密の侵害をめぐる米中の摩擦に油を注ぐ結果となった。

法執行当局者の1人は、中国政府と莫被告による事件との関連を調べているとロイターに語った。この当局者は「今回の場合、関連をみることはできる。しかし、法廷で争うには、中国政府が命令したことを示す文書が必要となる」と指摘。「それを入手することは、ほぼ不可能だ」と話した。

在米中国大使館の朱海権報道官は、莫被告の事件についての詳細な情報を有していないと述べた。しかし、中国が知的財産の保護について「断固たる姿勢」を取っていると強調し、この問題をめぐっては、米政府と「常時、連絡を取り合い、協力している」と述べた。

中国の習近平国家主席は、昨年9月にワシントンを訪問した際、米企業を狙ったハッキング問題について、中国政府は一切関与していないと改めて関連性を否定している。

中国のバイオテクノロジー企業、北京金色農華種業科技公司で働いていた莫被告は、米企業のモンサント、デュポン(DD.N)種子部門のデュポンパイオニア、LGシーズによって育てられた種子を盗んだ罪を認めた。

莫被告は特に、遺伝子組み換えトウモロコシの複製に必要となる種子親を生育する畑を狙っていた、と捜査当局は指摘する。FBIは、種子会社の従業員が、同被告に場所を教えた疑いがあると述べたが、従業員を訴追することはなかった。デュポンパイオニアとLGシーズは取材に対し、コメントを控えた。

単純な犯罪事件というよりは、国家安全保障にかかわる事案として司法省に起訴された莫被告は、最高5年の禁固刑判決を言い渡された。同じ事件で訴追された他の5人は、今もFBIによって指名手配中で、中国やアルゼンチンに逃亡したとみられている。もう1人の中国人に対する容疑は取り下げられた。

<国家安全保障>

FBIが関わる国際的な経済スパイ事件の数は増えている。2009年から2014年まで毎年15%増加し、昨年は53%上昇した。米当局によれば、大部分の事件に中国人が関わっているという。また、農業セクターでは、トウモロコシに加え、有機殺虫剤や灌漑(かんがい)設備、コメなどのすべてが、中国人などに狙われている可能性があるという。

北京金色農華種業科技公司の親会社、北京大北農科技集団で副社長を務める莫宏健氏は、今回の事件や、同社と中国政府との関連性についてコメントを控えた。北京大北農科技集団は私有企業だが、「科学技術」研究で政府から資金を受けているという。

世論の反対を受けて、中国政府は遺伝子組み換え穀物の商業栽培を禁止している。遺伝子組み換えトウモロコシの輸入は中国農業部の承認を必要とする。それでも、習国家主席は2014年、干ばつや、ペスト、病気に耐性があり、高い収穫高を約束するこうした技術を、中国が開発し、優位に立つよう呼びかけている。

1月に発表されたグリーンピースの報告書によると、中国の一部農家は、遺伝子組み換えのトウモロコシを不正に栽培。その種は、モンサントや、スイスのスイス農業バイオ大手シンジェンタ(SYNN.S)、デュポンパイオニアなどの企業が所有するものだった。

ブラック氏に種を供給するモンサントは、同社の研究所やアイオワ州ハクスリーにある研修センターへの見学を求める団体を断ることができる。モンサントは過去数年間、見学を希望する中国グループに対しては、独自のバックグラウンド調査を行ってきた。見学が承認された場合でも、何かを盗んだり、写真撮影ができないよう監視を強化しているという。

ワシントンでは、米上院議員が、中国国有化学メーカーの中国化工集団(ケムチャイナ)によるシンジェンタの430億ドル(約4兆6800億円)の買収案件を審査するよう求めてきた。シンジェンタは、売り上げのほぼ4分の1を北米で稼いでいる。

中国企業が遺伝子組み換えの種子を取得し、トウモロコシの再現に成功すれば、それはモンサントの約8年に及ぶ研究と年間15億ドルの開発費を省略する、濡れ手で粟(あわ)状態だ、とモンサント側は主張する。

ブラック氏の畑は、莫被告に狙われてはいなかったが、同被告が地面を掘って見つけ出そうとしていたのは、同氏が育てているモンサントの種子親だった。ブラック氏は今、自宅の前後の2つの畑でトウモロコシを育てている。そこは、同氏の2800エーカーに及ぶ農場の一部だが、彼が常時監視することができる。

モンサントは、いつどこで種子親を植えるかをブラック氏に伝えるが、何を植えているかは決して教えないという。

「誰も理解していないようだが、彼らは私のような人々から盗んでいる。農家がモンサントの種を買い、対価を支払う研究を中国人が盗んでいるのだ」とブラック氏は述べた。