米国政治、中国との貿易の影響でさらに分極化

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無人となったビルの側を歩く
2013年5月20日、コネチカット州ウォーターベリーの空き家になった工場の側を男が歩いていた。かつて工業都市として繁栄したが、ここ数十年で製造業がこの地域を離れるにつれて景気低迷に陥った。 スペンサー・プラット(Spencer Platt)さん/ゲッティイメージズ

米国人は、中国との貿易によって地元の産業が痛手を受けて、極右政治家や極左政治家に投票する可能性が高くなっている。

中国からの輸入品に因る激しい競争にさらされて、米国の有権者が、議会における「イデオロギー再編」を行っていると、4人の著名な経済学者が新たな研究論文で発表した。工場がシャッターをおろし、雇用が消え、地域経済が低迷する中で、米国人は、中道候補よりも、保守共和党あるいはリベラル民主党のどちらかを優先する傾向が見られる。

米国政治の分極化は、2016年大統領選挙で、一部反体制候補の予想外の躍進を説明する一因になっている。

米大統領選の共和党候補者として指名獲得に向けて戦っているドナルド・トランプ(Donald Trump)氏は、保守派かリベラル派かという争点ではなく、ポピュリストな経済ナショナリストとして地位を固め、中国からの輸入品に対して関税を課すことを含めて敵対的な通商措置を主張し、有権者の支持を集めた。億万長者の実業家であるトランプ氏は、中国から米国への輸入品に45%の関税を課すと約束した。ここまで過激ではないが、民主党候補者で左派のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)上院議員(バーモント州)もTPP(環太平洋経済連携協定)を含む通商協定を痛烈に批判し、中小企業をサポートし米国内の雇用を維持すると約束した。

青: 民主党 赤: 共和党  Congressional District Map InsideGov

「振り返ってみると、トランプ氏にしてもサンダース氏にしても、それが実現するのかをわれわれは見るべきである」とマサチューセッツ工科大学で経済学を研究するデビッド・アーサー(David Autor)氏は語った。アーサー氏は新聞にも寄稿しており、今週のニューヨーク・タイムズ紙では「中国ショックだけが唯一の要因ではないが、中国ショックはミッシングリンクのようなものである」と述べている(ミッシングリンクとは元来、生物の進化において、ある種族が次第に変化する中で、劇的な変化を発生させているようにみえる存在を指す)。

経済学者たちは2002年以降の投票記録や2010年の議会中間選挙の記録とともに、同時期の地域ごとの雇用消失や経済動向を調査した。研究論文によると、貿易に関連する地域は、既に共和党の手中にあり、有権者は保守的な共和党員を選出する可能性が現実的には高いと報じている。

2001年は、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した年である。同年の全米の製造業の雇用者数は、労働統計局によると1,640万人であった(季節調整済み)。その雇用者数が、2010年までに、中国との競争激化と2008年の世界金融危機によって産業需要と消費を減少させ、1,150万人となり約30%減少した。

全米の製造業の雇用者数(季節調整済み)。  米国労働統計局

米国の製造業の雇用者数は、2015年に1,230万人となり、やや回復した。しかし米国各地の多くの町では、依然として窓を板でふさいだままの閉店した店舗や、閉鎖された工場が立ち並び、町の人口は減少している。このような衰退の中で有権者は、雇用と明るい経済見通しで地域社会を活性化すると公約している大統領候補者へ支持を広げていると経済学者らは指摘している。

「輸入競争にさらされているため、中道主義の立候補者は不利だ」とカリフォルニア大学サンディ​​エゴ校(UCSD)のゴードン・ハンソン(Gordon Hanson)教授は英国の新聞「タイムズ(Times)」で述べている。チューリッヒ大学のデビッド・ドーン(David Dorn)氏とスウェーデンのルンド大学のカベー・マジェルシ(Kaveh Majlesi)氏も同記事の共同執筆者である。

「政治的分極と所得格差は互いに追いかけ合うことが知られてきたが、そのパターンは相互関係にある」とハンソン氏は同新聞で述べている。「経済変化が、どのようにして、一層の政治的分裂を招くのかというメカニズムを発見した」と加えた。

分裂は労働組合の間で顕著になっている。組織的な労働者は、トランプ氏と同氏の反貿易レトリックを支持する方向へ、さらに動いていると、先月アイビータイムズは報じた。民主党の一部と労働組合は、常軌を逸した不動産王の厄介者、トランプ氏が、従来なら民主党の選挙運動の重要な部分であった労働組織に属する組合員からの得票の大部分を奪い取ってしまうのではないかと懸念している。

「トランプ氏は働く人々の現実的かつ分かりやすい怒りを上手く活用している」と米国の労働組合のナショナルセンターであるアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(略称: AFL-CIO)のリチャード・トルムカ( Richard Trumka)議長は3月の演説で語った。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文:MARIA GALLUCCI 記者「In Districts Battered By US Trade With China, Americans Are Increasingly Divided Politically」)