ハッキングの学校――「アノニマス」が名誉回復を試みるバーチャルな教室の中身とは

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アノニマス
アノニマス GETTY IMAGES

先週日曜日、インターネットの最も暗い片隅で――そこでは誰も顔も名前も知らない――、世界中から250人の人々が、オニオンIRCという匿名のTorブラウザを始動させた。

彼らがそこに集まったのは、ドラッグを買うためでも児童ポルノの取引のためでもない。捕まることなくハッキングをする方法を学ぶためだ。そして、もっと利他的な目的もある。アノニマス、つまり最近評判を落としているハッカー集団を助け、もう一度立場を回復させることだ。

「プライバシーやセキュリティ、匿名性に関し、この講座は多くの話題を議論することになります」とインストラクターの1人「アテナ」が述べて、レッスンが始まった。

その後2時間にわたり、アテナと「テュケー」と呼ばれるもう1人のインストラクターがTorブラウザの使い方、ハード・ドライブの暗号化、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)の使用の是非について議論をした。生徒側からの質問に答え、次のレッスンでは「もっと面白いこと」をすると約束して、終了した。

これは、より広いハッキング界ではジョークと捉えられ、マスコミには注目を集める安易な方法と見られ、一般の人には、世界をより良くしようとする信頼のおける活動家組織というよりは、困ったやつらと見られているという、グループのイメージを変えたいとアノニマスコミュニティの数人のメンバーが作った闇のハッキング学校なのだ。

画像掲示板群の4Chanの片隅で発生して以来、アノニマスは何か可笑しなことを探す「荒らし」から、不正を但し不平等に光を当てようとする「社会運動」へと変貌してきた。

2011年以降、注目を集めたソニー・ピクチャーズへの攻撃や、ペイパル、サイエントロジー教会、ISIS、クークラックスクランへの反対運動でアノニマスに共感する人々の数は急速に増えた。しかし、これは必ずしも良いことにはなっていない。

「数は増えたが、全体的なハッキング技量レベルは下がり、活動性については言うまでもない」。これは、オニオンIRCを立ち上げたいわゆる「アノン」が、現在のアノニマスの状態を描写した言葉で、グループ全体としては物笑いの種になっている、とも述べた。平均的なハッカーにとっては、アノニマスはジョークだというのだ。

弊紙の取材に答え、このアノンが語ったところによれば、ある程度の秩序を回復し、アノニマス運動に共感する人々がターゲットを攻撃しつつ自分の身は守る方法を学ぶ手助けをしようと考えた有志が、このプロジェクトを支えているという。

当初からアノニマスに参加している人もいれば、新しい人もいる。中にはブラックハット・アカデミーやスクール4Lulzといった類似のプロジェクトを運営していた人も含まれている。「運用セキュリティやアノニマスであることは24時間体制の仕事だ」と、日曜日の開講レッスンでテュケーは述べ、アノニマス(「匿名」)の言葉にたがわず、プロジェクトを支えるハッカー活動家たちは、特定されたり以前の活動と結び付けられたりしないよう、自分の詳細を明らかにしない。

オーガナイザーによれば、オニオンIRCは新たな作戦の中継点ではないが、ユーザーがネットワーク内で自分のプロジェクトを組織したいというのであれば、それは妨げられないのだという。グループによれば、週に1回、主となるレッスンを提供する。レッスンの内容には制限がなく、インストラクターは、オニオンIRCを利用する人が知りたいことであれば何でも喜んで教えるのだという。ただ1つ除外されるのは児童ポルノだそうだ。

この1年、ISISやKKKを標的としたアノニマスの運動にメディアは注目してきたが、取材に答えてくれたアノンによれば、キャンペーンも報道するジャーナリストたちも、アノニマスのことを正確に伝えていないという。

「メディアは一般に、アノニマスの一番分かりやすい部分だけを取り上げるように見える。例えば、アノニマスのDDosに関するものやツイッタ―のアカウントは多くのマスコミの注目を集めている。これはアノニマスを認知してもらうにはよいことだが、活動や政治的ハッカー活動の実態については間違った像を伝えている」と彼らは言う。

オニオンIRCを運営する人々は、アノニマスの否定的なイメージはISIS作戦(OpISIS:「ISISに対する戦争」を宣言したが、ISISとは無関係なツイッタ―を報告したり、DDoS攻撃を実行するも数分しか続かずほとんどダメージを与えられなかったりした)のような失敗に終わったキャンペーンによって助長されたと考えている。

更に、最近のKKK支持者名簿の公開も同様に問題があった。テーマの本質からメディアで大きく取り上げられすぎ、不正確な情報が広まり、オニオンIRCのオーガナイザーに言わせれば「嘘」に過ぎないハッキングサイトが主張されるなどしたのだ。

メディアは「広く一般に誤りだと知られている」情報を流すと批判するアノニマスのメンバーもいるが、アノニマスに関する報道の最大の問題の一つは、このグループが本質的に複雑かつ分かりづらく、しばしば矛盾をはらんでいることにある。指揮系統はなく、参加制限もない。「私はアノニマスだ」と宣言すればメンバーになれるのだ。アノニマスの統一見解というものはなく、このことで報道が難しくなっている。

「構造や参加条件がないことで、アノニマスは無限のナンセンスの海になっています」とオニオンIRCのオーガナイザーは言い、しかしこのことには利点もあって、馬鹿げた活動は残りの人々を分かりにくくしてくれるのだ、と付け加えた。

教えている人々も相手が誰だか分からないなかで、不満を抱えた若者たちの群れにハッキング技術の訓練をしようというアイデアは、危険なゲームのようにも思われるかもしれない。しかし、アノニマスから訓練を新たに受けた犯罪者が自分の会社を攻撃するのではないかと過剰に心配するべきではないと思う、とComparitechのセキュリティ研究者リー・マンソン(Lee Munson)氏は言う。

「オニオンIRCはアノニマスにとってすばらしいリクルートのツールで、才能のない人々も来るかもしれませんが、会社の代表者が眠っている間に多くを失うというようなものにはならないと思います」とマンソン氏はIBTimesに語った。

知らない人に強力なハッキングのスキルを与えること自体の危険性について問われると、オーガナイザーらは新たなスキルが犯罪活動に使われる可能性はあるが、自分たちはそれを心配していない、と答えた。「我々は教育をしたいと考えており、それを行うつもりです。更に言えば、多くの法は公正を欠いており、ネットワークを支える仲間の中には刑務所がみな焼け落ちてしまえばいいという人もいます」と述べている。

*この記事は米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:David Gilbert記者「School Of Hacking: Inside The Dark Web Virtual Classroom Where Anonymous Wants To Become Great Again」)