トランプ波乱で賭けサイト台頭、世論調査超えるか

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アメリカ国旗とNY証券取引所

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ロイター

エリック・デュハイムさんは株式投資には消極的だが、「ドナルド・トランプ売り」「ヒラリー・クリントン買い」には前向きだ。

米マサチューセッツ州ケンブリッジ出身のデュハイムさんが取引を行う市場は「プレディクトイット」だ。そこは、いわば政治をテーマにしたオンライン株式市場で、ユーザーは、ある出来事が起きるかどうかについて、「イエス」か「ノー」のいずれかに少額のお金を賭けることができる。

「(実際の)株式市場で積極的に売買せずに済んでいるのは、1つにはこのサイトがあるからだ」と28歳のデュハイムさんは言う。マサチューセッツ工科大スローン経営大学院で博士課程に在籍するデュハイムさんは、週に何度かこのサイトをチェックするのを楽しみにしている。

プレディクトイットの開設は2014年。昨年末に1万9000名だった登録トレーダーは、現在3万人を超える。専門家や大統領選を戦う候補のアドバイザーたちにも一目置かれる存在になっている。ユーザーになれるのは、米国在住で有権者登録を済ませた人だけだ。

プレディクトイットは、学術研究向けに大学へデータ提供をすることが主な存在理由であり、普通のオンライン賭けサイトとは違う、と主張。2014年に米国商品先物取引委員会(CFTC)が発行した通達によれば、これが同サイトの運営を合法と認めた主な理由の1つだという。

プレディクトイットは、ニュージーランド首都ウェリントンのビクトリア大学と、ワシントンの本拠を置く政治コンサルタント会社アリストテレス・インターナショナルが共同で運営している。

主要な金融市場とは異なり、投資金額は小さい。CFTCが定めた参加者1人あたりの持ち高上限は各市場で850ドル(約9万4000円)であり、加入するときの保証金は平均100ドルにすぎない。

従来、この種の賭博サイトに対する規制当局の姿勢は厳しかった。CFTCは2012年、今は無きオンライン賭けサイト「イントレード」に対し、場外オプション取引禁止に違反したとして民事訴訟を起こした。アイルランド発祥のイントレードでも、「イエス」か「ノー」式の質問に対して資金を賭けることができたが、学術機関との結びつきはなく、取引する金額にも上限を設けていなかった。

<世論調査の代替に>

プレディクトイットやアイオワ大学が運営する類似のサイトなどの予想市場は、選挙予想屋にとって世論調査に代わるものとして台頭してきた。「アイオワ・エレクトロニック・マーケット」では、政治市場にアクセスするトレーダーが2000人しかおらず、プレディクトイットの方が規模は大きい。

「世論調査には非常にコストがかかる」とマイクロソフト・リサーチ社でエコノミストを務めるデビッド・ロスチャイルド氏は言う。ロスチャイルド氏は「プレディクトワイズ」という予想市場の分析サイトを運営しており、プレディクトイットのデータに大きく依存している。「世論調査は時間もかかるし、柔軟性も乏しい」

世論調査の結果も、プレディクトイットでの賭けの判断に織り込まれている。「予想市場では、世論調査その他の情報を確率に反映させている」と語るのは、バーナード・カレッジのラジブ・セティ経済学教授だ。「これがいわゆる『集合知』効果だというのが基本的な理解だ」

たとえば、大統領選挙に向けて不動産王のトランプ候補が共和党指名を獲得する可能性は、各予備選が進行したこの3カ月のあいだ、プレディクトイットのサイト上で大幅に変動した。

2月初めのアイオワ州予備選でライバルのテッド・クルーズ上院議員に敗れたときに30セントだった「トランプ」株は、1カ月後に「スーパーチューズデー」を制したことで80セントへ上昇。その後、4月初めのウィスコンシン州で大勝したクルーズ氏が勢いを取り戻したかに見えたことを受けて、半値に下がった。クルーズ候補ともう1人のライバルだったジョン・ケーシック・オハイオ州知事が指名争いから撤退した今、月曜日の時点で94セントにまで上昇している。

だが11月の本選については、プレディクトイット上でのトランプ氏の評価は、クリントン氏の59セントに対して、40セントと後れを取っている。

プレディクトイットの正確さについては研究者による今後の厳密な検証が待たれるところだが、アイオワ・エレクトロニック・マーケットなどの予想市場を研究した専門家によれば、世論調査と同じくらい正確であることが分かっているという。

プレディクトイット市場では、米国選挙以外のテーマも扱っている。今年中に北朝鮮が水爆実験を行う可能性については、ユーザーの評価はわずか29セント、イギリスが2017年までに欧州連合を離脱する可能性も、わずか30セントに留まっている。

プレディクトイットの構想を最初に思いついたのは、1990年代半ば、ビクトリア大学のルー・エバンス経済学教授である。この市場がニュージーランドにおいて「アイプレディクト」という名称で稼働し始めたのは、2008年になってからだ。

当初、アイプレディクトは主にニュージーランド政治を中心としていた。研究によれば、ニュージーランドでの過去3回の総選挙のうち2回の結果については、大多数の世論調査よりもアイプレディクトの予想の方が正確だったという。

だが昨年、ニュージーランドの新たな資金洗浄対策法によって、この市場は終了してしまった。この法律を遵守するためにユーザーの身許を確認するためのコストが、アイプレディクトの乏しい資金を脅かしてしまったのだ。

<予備選パーティ>

プレディクトイットには、選挙運動のボランティア運動員から政治マニアまで、さまざまな人々が集まっている。

4月半ばには、プレディクトイットに参加しているトレーダー約30名がニューヨークのバーに集まり、同州予備選の結果が明らかになるのを見守った。

このイベントに参加したブライアン・ヘガティさんは、「集合知を生み出すにはいいのではないか」と話している。

ケーシック陣営で働いたことのあるヘガティ氏は、政治関連のニュースも読むが、選挙運動の経験を通じて得た情報にも頼っている。それが必ずしも「ケーシック株」への投資につながるとは限らない。

彼は、ミネソタ州の共和党党員集会ではマルコ・ルビオ上院議員が勝つことに賭けたという。フロリダ州知事のルビオ氏のもとで働いていた人が同氏勝利の可能性に自信を示したことを聞き及んだからである。結果的にミネソタ州は、3月半ばに撤退するまでにルビオ氏が勝利を収めた数少ない州の1つとなった。

MITの学生であるデュハイムさんは、通常、途中で燃え尽きる可能性が高いと思われる候補が負ける方に賭けるという。

「トランプ氏もその1人だった」と彼は言う。「7月にはトランプ株を売っていたから、その後の展開は面白くなかった」

5月初めにインディアナ州でトランプ氏が勝ったことで、デュハイムさんは1000ドル近い損失を出した。彼がプレディクトイットで投資した金額の約3分の1に当たる。

「トランプ現象」についてデュハイムさんは、「今でも100回に1回あるかないかの出来事だと思っている」と話す。彼は民主党の大統領候補については特定の名を挙げなかったが、オバマ米大統領のファンだという。「もちろん損をしたことで落ち込んではいるが、このままトランプ氏が大統領になる方が心配だ」