米大統領選:広告資金源はどこから? 激戦州で地元報道に大きな影響

  on
政治討論会でのロムニー候補とオバマ大統領

16日に2回目の政治討論会を行ったロムニー共和党候補とオバマ大統領。

ロイター

 米国の次期大統領選挙まで2週間とわずかになった。米国のテレビ局では選挙関係の報道が連日行われている。

 候補者に関する耳障りなおしゃべりや、ロムニー候補の失言に触発されたインターネット上の発言など、さまざまな報道が流れている。けれども、報道番組から提供される情報には重要な項目が漏れていると指摘する批評家もいる。

 今年の大統領選挙の政治広報には、どれほど多額の資金が費やされたのか?

 メディアリフォーム組織「フリープレス(Free Press)」の最新調査によると、テレビ局は選挙のための広告資金がどこから流れているのかに目をつぶっているという。

 米国には「シチズンズ・ユナイテッド」という事例がある。

 「シチズンズ・ユナイテッド」とは、「シチズンズ・ユナイテッド 対連邦選挙委員会(Citizens United vs Federal Election Commission)」という2010年の最高裁での裁判を指す。ヒラリー・クリントン氏について右翼団体シチズンズ・ユナイテッドが作成した偽ドキュメンタリーが、選挙直前にテレビで放映されようとした件に対し、法律違反の可能性で放映が禁止されたことによる裁判が行われた。シチズンズ・ユナイテッドはドキュメンタリー製作費用が何処から来ているのか公表を拒否したため、選挙法違反が疑われたのだ。しかし最高裁判所は「企業の政党や政治家への選挙キャンペーン資金援助を合法」とする決定を下した。

 最高裁のこの判決により、企業は政党のテレビ宣伝等に資金援助ができることになった。政党側が、資金欲しさのために、企業のための政策を打ち出す可能性が高くなるとする批判意見もある。しかし、この判決が下されてから、大規模な団体からの政治広告は両陣営ともに野火のように広まった。

 米選挙戦での金の使い方について「Super PACs」という言葉がよく出てくる。Super PACsとは、これまでは選挙戦での金の使い方に関してPAC(Political Action Committee)の定めた規則により細かな規制があったが、2010年の最高裁判断により、その規制が大幅に緩められ、候補者への直接献金以外は事実上無制限になったこと等の新しいルールを指す。

 フリープレスのシニアディレクター兼執筆者であるティモシー・カー(Timothy Karr)さんは、「地元関係団体が膨大な数の広告について沈黙を守っているのはとんでもない」と述べた。

 カーさんは、放送局が広告資金がどこから入ってきて、どこへ流れ込むかという現金の循環を混乱させないか、躊躇していると論じる。「放送局は、汚い資金に関与していると記事に書かれれば、不快に思うだろう。選挙戦で、放送局は広範囲にわたり大きな役割を担っているが、米国の現代政治の多くの資金は、国内の地方テレビ局市場をコントロールする同じ巨人のポケットの中から流れ出している」とカーさんは述べ、「このような政治広告資金は不正につながる。従来は監視する役割を担ってきた放送の力が失われたように思える」と語った。

 カーさんは「テレビ局のオーナーはこれら資金の問題にかかわるのをひどく嫌がる」と言う。IBTimesは繰り返し、米クリーブランド州の地元4局、ABCのチャンネル5、NBCのWKYC、CBSの19 Action News、FOXのWJWと接触してきた。しかしいずれも返答がないか、この件に関するコメントは断られた。WKYCの番組ディレクターは、この問題について唯一語れる人物は10月30日まで外出中であると述べた。

 報道機関は、言論界の執行者として、公共への情報源の発信という使命を持つ。特に公共電波に頼ってきた従来の放送番組には使命がある。連邦政府の独立機関でラジオ・テレビ放送、電信、電話、衛星通信などを監視する連邦通信委員会(FCC)により、公共放送の良化向上は義務付けられている。

 しかし、激戦州に存在する一握りの放送局は、次期選挙結果を左右するほどの影響力をもつが、FCCによる放送の良化向上に必ずしも対応しているとは言いがたい。

 コーク兄弟

 米国にコーク(Koch)兄弟という億万長者がいるのはご存知だろうか。

 コーク兄弟は、米カンザス州ウィチタでエネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズを経営する。チャールズ・コーク(Charles Koch)さんとデイビッド・コーク(David Koch)さんの資産はそれぞれ220億ドルに達し、フォーブス誌の世界長者番付(2011年版)の18位に名前が挙がっている。

 コーク兄弟は、チャールズ・コーク財団(Charles G. Koch Charitable Foundation)、デイビッド・コーク財団(David H. Koch Charitable Foundation)、クロード・ランブ財団(Claude R. Lambe Charitable Foundation)を所有しており、これら3財団は合わせて「コーク財団」ないし「コーク家族財団」と呼ばれている。コーク財団は保守派の重要な「弾薬庫」であり続けてきた。

 オバマ大統領について、チャールズ・コークさんは「マルクス主義者と呼ぶつもりはないが、マルクス・モデルの一部を内面化している」と述べ、デイビッド・コークさんは「史上最も急進的な大統領である。これまでのいかなる大統領よりも、自由市場のシステムや長期的な繁栄に対し多くの損害をもたらしている」と語っている。このような考え方から2人は、オバマ政権の動きを何としてでも阻止しなければならないという信念を有している。

 コーク兄弟は保守派の政治インフラの支援に加え、エリート層の結集と草の根レベルの運動の立て直しをめざし、「繁栄のためのアメリカ人の会(Americans for Prosperity, 以下AFP)」を創設。草の根レベルでの会員拡大を目指している。

 コーク兄弟の経営する会社は最近、オバマ大統領に投票すれば「悲惨な結果になる」としたメモを従業員に送ったとして話題になった。またAFPは反オバマ大統領の広告を放送するために、クリーブランド州で150億ドル以上かけて放送時間を購入した。その広告は500回、クリーブランド州のニュース番組で流されたという。

 今年の大統領選挙では、AFPなどの団体組織は、激戦州で記録的な量の放送時間を購入した。有権者は、対立候補のことを暴露するような広告を、毎日のように目にしている。

 チェックは行われない

 広告運営するための財布のひもをあやつっているのは誰なのか、通常は問われない。実際、多くの場合、広告は当局によって内容のチェックすら受けていない。

 多くの場合、誰が組織を支援しているのかほとんどわからない状態で支援が行われている。Super PACsは主な資金提供者の開示を要求する。しかしコーク兄弟が創設したAFPのような左傾の非営利の政治団体は「社会福祉団体」として位置づけられている。このため資金提供者の開示についてはフリーパスとなる。

 超党派政策センター(The nonpartisan Center for Responsive Politics)は、資金提供者の秘密主義に終止符を呼びかけている。しかし裕福な資金提供者は匿名性を強く望んでいる。

 連邦通信委員会(FCC)の規制下では、地方放送局は、大統領候補者の広告放送時間を拒否できない。だが地方放送局は組織団体に放映を拒否する権利は持っている。けれども多くの放送局は、この権利を行使することはめったにない。団体は立候補者の4倍以上の広告料金を支払うからだ。

 新たな取り組み

 すべての地方放送局が沈黙を守っているとは言えない。今月初め、アネンバーグ公共政策センターのディレクター兼FactCheck.orgの共同創設者であるキャスリーン・ホール・ジェイミソン(Kathleen Hall Jamieson)さんは、デンバーの地元放送局が両陣営からの激しい広告攻撃の中で政治団体の主張の事実チェックを行ったとして、デンバー・ポスト紙上で賞賛した。「デンバーの放送局は、政治的主張を現実に検証しただけでなく、それをうまく行った。称賛に値する」と彼女は書いている。

 また、アネンバーグセンターと協力し、誤った方向へ物事を進めるとして「Super PACs」に対抗するための取り組みを行ってきた組織の運営者、マイク・キャベンダー(Mike Cavender)さんも、デンバーの放送局の努力を引用し、「ニュース部門が偽の広告を発見し、経営者側に報告するならば、良い番組運営という見返りがあるだろう」と述べた。

 ピュー・リサーチ・センターがこの夏発表した調査では、アメリカのニュースメディアへの信頼は低下し続けている。調査によると、地元のテレビのニュースの評価は20年間減少し続けており、若い視聴者の間ではさらに劇的に減少しているという。一方、地方の報道機関は65%の支持率となり、その結果を喜んだとしている。

 人々はどのような報道を望んでいるのだろう。どこにでもありそうな月並みな主題よりも、センセーショナルな話題が受けるというのは、よくある事実である。

 しかし、フリー・プレスのカーさんは、放送局が公共の利益のための情報提供により重点を置いたとしても、視聴者は必ずしもニュース番組にチャンネルを合わせてくれるとは思えないとしている。

 良くも悪くも、今年の米国の大統領選挙は、政治を根本から変えた「シチズンズ・ユナイテッド」 による状況変化の中で行われてきた。カーさんは「予測不可能な新しい時代の中で、政治とマスコミの相互依存はますます高まっている。そして暗い資金の流れが民主政治のプロセスに大きな影響をあたえている」という。

 「今回の選挙の最大の勝者は、混戦状態の中で激戦州放送局をおさえたコングロマリットであることは明らかだ」とカーさんは述べ、「最大の敗者は? 私たちの民主主義となるのかもしれない」と指摘している。

 この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。