テスラ創業者の超高速チューブ列車Hyperloop構想を予測する

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ET3(Evacuated Tube Transport Technologies)、いわゆる真空チューブ輸送テクノロジーは非常に少量のエネルギーを使用して、真空化したチューブ内で摩擦力と空気抵抗をゼロに近づけて磁気浮上力を使い移動するアイデアだ。リニアモーターカーのために開発された。

ET3社

 米国時間15日、イーロン・マスク(Elon Musk)氏が「Hyperloop交通システムの暫定案を8月12日までに発表する」とツイートした。マスク氏は、米シリコンバレーを拠点にバッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品を開発・製造・販売している自動車会社「テスラモーターズ」の共同設立者であり、ロケット開発や宇宙輸送を業務とする米企業SpaceX(スペースX)の創業者でもある。同氏は2002年にインターネットベンチャー企業PayPal(ペイパル)も創業した。

 マスク氏は1971年南アフリカ共和国・プレトリア生まれの米国の起業家だ。南アフリカ人の技術者の父親とカナダ人の母親の間に生まれ、後にカナダに移り、米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールで学位を取得した。同氏によると、当時から「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3分野に従事したいと希望していたという。

 マスク氏が初めてHyperloopプロジェクトについて語ったのは約1年前、米テクノロジーウェブ情報サイト「PandoDaily」のイベントで、サラ・レイシー(Sarah Lacy)氏と対談したときだった。マスク氏はこのプロジェクトについて、列車、航空機、自動車、ボートに変わる第5の輸送モードと名付け「コンコルドとレールガン(電磁砲)とエアホッケー盤を合わせたようなもので、決して事故を起こさず、天候に影響されず、新幹線より3~4倍速い」システムだと述べた。

 Hyperloopが実際どのようなシステムなのかは8月12日になるまでわからない。さまざまな推測が飛んでいるが、有力説は、空気抵抗を減らすために減圧されたチューブの中に電磁力で駆動されるカプセルを走らせるシステムだろうというものだ。もしこれが本当なら、半生記以前からSFでおなじみのアイディアだ。マスク氏の構想はどのようなものなのか、興味があるところだ。

 ここでは、マスク氏が構想するシステムがどのようなものかを明らかにするために、5つの異なる側面から、過去、現在、未来の類似する交通システムを検証してみる。

米ビーチ・ニューマティック・トランジット社(Beach
米ビーチ・ニューマティック・トランジット社(Beach Pneumatic Transit Company)は、わずか58日で空気圧を利用した地下鉄システムを完成させた。(写真提供: ウィキメディア)

 1)1870年、米ビーチ・ニューマティック・トランジット社による空気圧を利用した地下鉄

 米国NYの「地下」を実際に走った第1号は、化学雑誌編集者・発明家のアルフレッド・ビーチ氏(Alfred Ely Beach:1826-96)が1867年にマンハッタンで開催されたフェアで披露したもので、「チューブ」に「客車」を置き、50トンのファンを備えた巨大扇風機による圧縮空気でそれを動かすという、英国ロンドン市が試みていた郵便などを送るための圧縮空気チューブ網を大掛かりにしたものだった。フェアでの展示は大好評を博し、蒸気機関車の時代に煤煙のないこのシステムは喝采をあびた。

 1870年2月、ビーチ氏は、この地下「チューブ車」をローワー・マンハッタンの「シティー・ホール」傍であるブロードウェイの、ワレン・ストリートとマレー・ストリートの1ブロック間で走らせた。1乗車25セントの、いわば遊園地の「アトラクション」のような感じだったようだが、またも大好評を得て1年で延べ40万人が乗車したという。ビーチ氏はこの1ブロックのラインを北のセントラル・パークまで延長する事業申請を行った。しかし1873年、金融恐慌により事業は夢と終わった。

 Hyperloopは地上を走行するが、ビーチ氏の地下「チューブ車」は、ずいぶん以前から人類が新たな輸送システムを探し続けてきたことを示している。


1976年、映画『2300年未来への旅』の中でチューブを使用した輸送システムが登場した。写真提供: MGMスタジオ

 2)米映画『2300年未来への旅』(Logan's Run) 

 米映画『2300年未来への旅』(Logan's Run)では、大気汚染のため、人々は巨大なドーム都市に住んでいる。人口爆発を防ぐために30歳を超えた者は殺されてしまう23世紀の世界を描いたディストピアである。この映画の中では、2274年の人類はドーム型の「シティ」の中で、コンピューターに管理されて暮らしている。移動には長いチューブの中の流線型の容器を使用する。

 その映画の中の「特急列車」は時速約240~320キロであるが、Hyperloopは時速約1,200~1,600キロになるため、はるかに高速となる見込みだ。


米アニメテレビ番組「フューチュラマ」(Futurama)にはチューブ輸送システムが登場する。写真提供: 20世紀フォックステレビジョン

 3)2999年「フューチュラマ」のチューブ輸送システム

 米テレビアニメ「フューチュラマ」は世界各国で放送されている人気番組だが、日本では知名度は低いようだ。マット・グレイニング(Matt Groening)氏と脚本家のデイヴィッド・X・コーエン(David X. Cohen)氏が大人向けのアニメを作るために立ち上げたプロダクション・スタジオ「The Curiosity Company」によって製作されたSFコメディ作品だ。

 物語は31世紀の地球を舞台に「誤って冷凍保存されてしまった」21世紀のピザ宅配人フィリップ・J・フライを主人公に、彼が遭遇する1000年後の未来の社会問題や惑星間関係などをブラックユーモアを交えて描いている。過去にエミー賞を3回受賞し、人気は高い。

 このアニメの中で、未来のニューヨーク市の地下鉄交通システムとして、チューブを使用した輸送システムが登場する。空気圧を利用したチューブのようだが、どのようなシステムなのか番組中では説明されていない。マスク氏はHyperloopが天候に左右されないと語っていたが、アニメに登場するチューブ輸送システムと類似のものかもしれない。

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ET3(Evacuated Tube Transport Technologies)、いわゆる真空チューブ輸送テクノロジーは非常に少量のエネルギーを使用して、真空化したチューブ内で摩擦力と空気抵抗をゼロに近づけて磁気浮上力を使い移動するアイディアだ。リニアモーターカーのために開発された。写真提供: ET3社

 4)真空チューブ輸送技術(ET3)

 ET3は特許を取得した技術である。マスク氏とは関係のない企業であるコロラド州ロングモントにあるET3社が現在、「地上の宇宙旅行」として真空化チューブ内輸送機関(ET3)を開発している。一般の車程度のサイズの旅客用カプセルが、磁気浮上軌道に沿ってチューブ内を通過する。米ロサンゼルス・タイムズ紙は、マスク氏が、HyperloopはET3のような真空管を通るリニアモーターカーのように厳密な機能ではないと語ったと報じた。

 「真空チューブ列車」のコンセプトは、もともと1910年代の初めに浮上した。1972年にランド研究所が公開した、物理学者のR.M.ソルター(Salter)氏による「超高速輸送システム(VHST)」という論文では、ET3社が開発しているものによく似たものが説明されている。ET3は内面が滑らかなチューブを地下や海底に埋め、中を真空にし、摩擦力と空気抵抗をゼロに近づけることにより地球の重力や最小限のエネルギー付加によって物資を輸送するシステムだ。

 真空化されたチューブ、もしくはトンネルの中をリニアモーターカーが走るというもので、現在、地域ネットワークを形成するために調査・研究されているが、この提案者は大陸横断・大陸間横断のルートとして地下鉄ネットワークを形成し、それに真空列車を使用することを示唆している。速度はマッハ5から6を想定しており、地下深くに建設され、加速には重力も利用することにより、ロンドン~ニューヨーク間が航空機よりも早く輸送できる可能性があるという。


テスラ社のスーパーチャージャーネットワークは同社が開発した電気自動車をパワーアップするシステムで太陽光発電を利用している。この太陽光発電によるパワーアップがHyperloopにも使用されるかもしれない。写真提供: テスラモーターズ社

 5)2013年、米カリフォルニア州テスラ社のテスラスーパーネットワーク

 米テスラモーターズ社は今年5月30日、新たな急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」を全米に拡大展開すると発表した。スーパーチャージャーは2012年9月に発表され、テスラ社の新型EV(電気自動車)セダン「モデルS」の顧客が外出先で充電するためのネットワークとして開発された。

 「スーパーチャージャー」の最大の特徴は、ソーラーパワーを利用した充電装置という点だ。見た目はソーラーパネルを備えたカーポートのようになっており、「モデルS」を駐車すれば約30分で充電が完了する。太陽エネルギーのため、充電料金は無料だ。

 テスラ社は2012年9月、カリフォルニア州の6か所に「スーパーチャージャー」を設置したが、全米に拡大展開すると発表した。

 テスラ社によると「モデルS」の顧客は約3時間走行したらスーパーチャージャーに立ち寄ればいい。コーヒーを飲むぐらいの、時間にすると20~30分で充電は完了すると説明した。

 テスラ創業者のマスク氏は、Hyperloopにソーラーパネルを設置すれば充電可能であり、そうすればシステム内で消費するよりも多くの電力が得られるとした。太陽電池技術は同社でスーパーチャージャーネットワークのために開発されたが、同ネットワークはHyperloopへの電力供給システムの有力候補である。

 マスク氏は「電池を使用せずに一日中走行させる方法はある。絶対的に可能である」と述べた。

 *この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。