現代美術の落札価格、史上最高額を次々と更新

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 作品が史上最高額で落札され、記録が次々に更新されている近年は、現代美術のアーティストにとってまさに黄金時代といえる。「これには新興富裕層のコレクターが一役買っている」。スイスインフォにそう説明するのはスイス人アーティスト、ナディア・ベリさん。生活の拠点をロンドンに置き、サザビーズ美術大学院で講師を務めている。

 2013年11月13日、ニューヨークの競売大手クリスティーズでフランシス・ベーコンの3連画の油絵「ルシアン・フロイドの三習作」(1969年)が、約1億4240万ドル(約141億円)で落札された。オークションで売られた美術品としては史上最高額。スタートからわずか10分後の出来事だった。翌日のサザビーズのオークションでは、別の作品が数点、やはり過去最高額で落札された。

 この天文学的数字を見ただけでも、現代美術の国際市場が爆発的に伸びていることが分かる。美術品市場情報の世界リーダーであるアートプライス(Artprice)の最近の報告によると、昨年は不況にもかかわらず現代美術の市場は15%伸び、収益が史上初めて10億ユーロ(約1356億円)を超えた。美術品の市場自体は2.4%縮小と苦戦する中での記録だ。

 今やルネッサンス時代の巨匠の作品より、現代美術に高値が付くご時世。インタビューではナディア・ベリさんがこの背景を解説。また、アート業界にはどんな職があるか聞いた。

 swissinfo.ch : あなたは、アーティスト業の傍ら、講師も務めていらっしゃいます。どうやってこの二つの職業を両立させているのですか?

 ナディア・ベリ : 私にとって授業の1回1回がパフォーマンスのようなもの。芸術とは何かを伝えながら、実用的な業務に基づくワークショップを行う。この二つの職業は互いに融合しながらも、きちんと独立性を保っている。

 講師の仕事においても、(現場によって)全く異なる世界が交差する。例えばサザビーズ美術大学院や、近現代美術館テート・モダン(Tate Modern)、チャリティー・ボウ・アーツ(Charity Bow Arts)が挙げられる。

 swissinfo.ch : 主立った競売会社と提携している機関の講座に人気が集まるのは何故ですか?

 ベリ : サザビーズ美術大学院はもともと、競売会社の「学校」だった。「サザビーズ」という競売会社の名前はそのまま残っているが、2002年以来、英マンチェスター大学に所属している。また、競売会社とは今でも緊密なつながりがある。私は2008年からこの大学院で現代美術史を教えているが、講座の人気は年々高まってきている。これは今日ではアート業界で職を見つけるチャンスがあることの表れだ。

 例えば「アート&ビジネス」という講座は、私がまだ私講師のとき学生25人を相手に始めたが、過去3年間に生徒数は2倍に増えた。

 swissinfo.ch : どのような人が講座に参加していますか?

 ベリ : 世界中の若者たちがロンドンにやって来る。このような講座に参加するには、大切な条件が二つ要る。一つは自国でハイレベルな専門知識を身に付けていること。もう一つは、ハイレベルな養成に必要な多額の資金。新しいチャレンジを求めてやって来る参加者も多い。

 swissinfo.ch : ロンドンはヨーロッパ現代美術のメッカと言えますか?

 ベリ : 言えると思う。芸術のトレンドは全てロンドンに結集する。ここには美術館、競売会社、ギャラリーが数多く存在するだけでなく、資金もそろっている。作品をすべて自分で制作して、仲介者なしで作品を直接取引するアーティストもいる。

 swissinfo.ch : 芸術作品とそうでないものとの境界線が分かりにくいことがありますが、現代美術の作品はどのように評価するのですか?

 ベリ : まず作品を理解し、真のメッセージを知ることが重要。また、作品に対する鑑賞者の反応も大切。好みというものは個人的で、他人に左右されてはいけないが、批判的な視点で作品を見ることは重要だ。ギャラリーに展示してあるからといって、その作品が優れた芸術作品とは限らない。ギャラリーの趣向を示しているに過ぎない。

 作品の商業上の価値と芸術的な価値は全くの別物だ。はやり、すたれは芸術にはつきもの。今は特に現代美術が注目されていて、ロシアやアラブ諸国の新興富裕層のコレクターが購入している。作品を選ぶ際、美術アドバイザーの意見に頼っているようだが、そのアドバイスがコレクター自身の創造性や判断の妨げになる場合も多い。

 swissinfo.ch : 新興富裕層のコレクターが、とりわけ現在美術に注目しているのは何故ですか。

 ベリ : 現代美術にはゴージャスなイメージがあり、新しいコレクターを特徴づける何かを伝えているからだ。もちろん、中には感動を与え、メッセージを持つ現代美術を本当に理解しているコレクターもいるが。

 swissinfo.ch : 今、誰が旬の画家ですか?

 ベリ : 私が「ムリーリョ症候群」と呼んでいる流れがある。既に価値が見出されているアーティストをコレクターに勧めることがあるが、コロンビア出身の画家、オスカー・ムリーリョがそれに当てはまる。画商アニナ・ノセイが80年代にジャン・ミシェル・バスキアの作品を「スラム街の心の声」と紹介して以来、作品が注目されるようになったときとよく似ている。

 swissinfo.ch : スイスの芸術家に関してはどうでしょう。

 ベリ : アルベルト・ジャコメッティが偉大な芸術家だと思う。彼の名前は驚くほどの金額と結びついている。パウル・クレーも偉大な芸術家で、ロンドンの国立近現代美術館テート・モダンには素晴らしい展示もあるが、オークションではジャコメッティほどは成功していない。

 swissinfo.ch : オークションの際、ブームだからではなく、作品の持つメッセージ性で高値がつく芸術家はいますか?

 ベリ : 私の経験からすると、パフォーマンス「非物質的絵画的感性帯の譲渡(Zone de Sensibilité Picturale Immatérielle)」で知られているフランスの画家、イヴ・クラインがそれに当たると思う。クラインはモノクローム(単色)画、特に「青」が最も有名だ。(編集部注釈:クラインの作品「ザ・ピンクオブブルー(Le Rose du Bleu)」は2012年に2356千万ポンド(当時約31億円)で落札された。)

 クラインは「完璧な青色の表現」にこだわった。試行錯誤を繰り返し、ついに自分の求める色を見つけたクラインは、1956年にこの色を「インターナショナル・クライン・ブルー(International Klein Blue)」と呼び、特許を取得している。美術業界ではIKBで通っている色だ。

 swissinfo.ch : ベリさんの個人的な趣味で選ぶ場合、誰の作品をコレクターに勧めますか?

 ベリ : もちろん、ロバート・ラウシェンバーグの「消されたデ・クーニング(Erased de Kooning Drawing)」(1953年)を勧める。画家であり彫刻家でもあったラウシェンバーグのこの作品は、抽象表現主義の画家、ウィレム・デ・クーニングから譲り受けた絵を消して、ただの白い紙にしてしまったもの。サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)に保管されている。ひょっとしたらこの作品の持つ背景が功を奏して高値が付くこともあるかもしれない。

 シモーナ・フェラッツォ,swissinfo.ch

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