アングル:ホンダ、7年ぶりF1復帰で狙う燃費効率レース制覇

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ホンダ

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ロイター

 ホンダ(7267.T)は来年、自動車レースの最高峰F1に7年ぶりに復帰する。英国の名門チーム「マクラーレン」にエンジンを供給する形での参戦だ。レースで勝つ技術を極めることで、環境性能をより高めた市販車を開発するためのノウハウ獲得を目指す。

 技術を生み出すインキュベーター(ふ化器)としてF1を生かしたい。そんなホンダの思いを冷ややかに見る向きもある。ホンダは2000年―08年の第3期のF1参戦で、エンジン開発だけでなく、車体開発やチーム運営にまで手を広げた。結果は1勝153敗。

 そして起きたリーマン・ショックと、その後の急激な事業環境の変化。巨額資金が必要なF1に株主などから厳しい目が注がれ、業界全体で強まる環境対応車への流れにも逆らえず、満足できる結果を残せないまま、やむなく撤退へと追い詰められた。ホンダは今回の復帰で名誉を挽回したいだけだ、と皮肉る声もある。

 そうした意見にF1の責任者で本田技術研究所の新井康久・専務執行役員(57)は、必ずしも反論しない。

 1988-92年にタッグを組み、88年には16戦中15勝するなど通算44勝をあげ、黄金時代を築いた「マクラーレン・ホンダ」。F1で3度のワールドチャンピオンに輝いたブラジル人ドライバーの故アイルトン・セナ、4度のF1ドライバーズチャンピオンに輝いたフランス人ドライバーのアラン・プロストを擁し、栄光をもたらした時代をもう一度、取り戻したい――。同氏はそう話す。

 「レースは2位ではダメ。勝たなければ意味がない」。鈴鹿サーキットで今月開かれたF1ファンイベントで新井氏はそう強調し、展示された歴史に名を残すホンダの名車の周りを歩きながら思いをはせた。

 1964年にF1に初参戦して以降、撤退、再参戦を繰り返し、ホンダにとって今回は4回目の挑戦。F1の歴史でもっとも成功しているチームの1つであるマクラーレンについて、同氏は「最初から勝てる強いチームと組んだ」と語り、勝利へのこだわりを見せた。

 <レースは「走る実験室」>

 だが、ホンダがF1に復帰するのは、レースのためだけではない。

 今年から変更されたF1のエンジンルールでは、ガソリンと電気の高度なハイブリッド技術が求められる。ブレーキ作動時の運動エネルギーを電気エネルギーに回生するだけでなく、排気ガスとして捨てていた電気エネルギーに回生する技術を磨かなければならない。

 その技術こそが市販車でホンダの競争優位になる――。新井氏はそう語り、力を込める。

 14年シーズンからF1の内燃エンジンは、これまでの2.4リッターV8エンジンから1.6リッターV6ターボエンジンに変更され、搭載燃料が現在よりも約3分の1削減。ターボチャージャー技術によって、より小型化したエンジンが要求される。この新規制は豪メルボルンで3月14日から開催したF1から適応された。

 ホンダが特に関心を抱いているのは、排気ガスとして捨てていた熱エネルギーを電気エネルギーに回生する技術だ。この技術は市販のハイブリッド車に使われる技術にも通じる。マクラーレン・ホンダは、来年開幕するF1でこの回生技術を使ってより早くより長く走り、F1の頂点を目指す。

 創業者の故・本田宗一郎氏は1960年代、F1を「走る実験室」として生かしたいと考えていた。その思いが伊東孝紳社長に復帰を決意させた、と新井氏は語る。

 今日のどんな最先端のガソリンエンジンでさえ、燃焼により作られる熱エネルギーはたった30%しか使われない。残りは排気管を通して熱として漏れたりする間に浪費される。新井氏はこれを40%にまで高めたいという。

 実現できる技術など「そんなものは今、世の中にない」が、「排気エネルギーをタービンで電気エネルギーに変えることは非常にチャレンジングだし、きちっとまとめられれば、量産技術にも仕上げられる」と新井氏は意欲を見せた。

 <未体験の燃費効率追求へ>

 レースを技術のインキュベーターとして活用することは容易ではない。F1を「走る実験室」としても捉えているメーカーと、「勝利」をとことん追求しなければならないレーシングチームとの間で、現場ではすさまじい意見の衝突が起きうるからだ。

 第3期のレギュラードライバーとして活躍した佐藤琢磨氏。「レースはレースのノウハウがあって、車を速く走らせるということと、市販車を作るということは別だ」としながらも、メーカーもチームも「勝ちたいという思いは同じ。当時もホンダのアイデアはふんだんに取り入れられていた」と振り返る。

 例えば、最大限のパワーを発揮するようメーカー側が設計したエンジンでも、チーム側としては重量が重すぎるとして軽量化を求めるなど、常にメーカーとチームの間ではせめぎ合いが起きるものだが「それが逆に言えば、また良いモノづくりにつながるのかもしれない」と佐藤氏は話す。

 燃費効率をめぐるメーカーとチームの激しい衝突にも合致点はある。新井氏も、そこから生まれたF1での技術が市販車にも生きることを望んでいる。

 ここ20年あまり、ホンダよりもトヨタのほうが未来志向の企業として見られ、ハイブリッド車「プリウス」の成功がそうした評判を広めてきた。

 ホンダも今でこそ伊東社長がハイブリッド車への戦略シフトを進めているが、当初、ハイブリッド車戦略では出遅れた。ホンダ社内でも、2000年代は世の中にアウトプットが示せず「いわゆる失われた10年と呼ばれていた」(ホンダ幹部)。

 ホンダ関係者らが話すように、今回のF1復帰で勝利すれば、2000年代の負のスパイラルから解き放たれる。満足な結果を残せなかった第3期では、世界の顧客が燃費の良いクルマを求めていたにもかかわらず、F1では最先端技術にほとんど注意を払ってこなかった。そんな世界で9年もの間レースをやり続けた、という反省がホンダにはある

 今回のルール変更で、ホンダは「ものすごいチャレンジングな」(新井氏)最先端技術の戦いに挑むことになる。同社が目指すのは、だれも経験したことのない燃費効率レベルに高められるエンジンのアイデアにつなげることだ。「実際にやると、とても苦しいが、魅力ある世界だ」。新井氏はそう意気込みをみせていた。