2010年8月24日 10時35分 更新

[コラム]ソブリンCDS市場の現状

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 出典:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 金融技術開発部 近藤 祐和 2010年6月29日付」より

 注目されるソブリンCDS

 リーマン・ショックを機に一躍話題となったCDS(Credit Default Swap)。そのCDSが今度はギリシャ債務問題をはじめとする欧州金融危機でも取沙汰されている。2010年5月19日、ドイツ政府は国債などの現物の裏付けの無いCDS取引を禁止した。また、ドイツ以外の欧州政府当局の間でも、CDSを「補填目的」に限定し、「投機目的」は禁止すべきといった議論が行われている。一方、我が国のCDSの現況はどうか。以下ではCDSを概説した後、日本のソブリンCDSについて述べる。

 CDSとその利用目的 ―ソブリンCDSとは―

 一般に債権者は債務者に対して信用リスクを負う。信用リスクとは債務者が債務を履行しないことによるリスクのことである。例えば、銀行は融資先の企業が破綻した際には、貸し出したお金の元金・利息が回収できないことになる。このような、信用リスクに対する保証を売買する取引がCDSである(*1)。保証の買い手は、売り手に対してプレミアム(保証料)を支払うことで、債務者が債務不履行となった場合に発生する損失分相当額を、保証の売り手から受け取れる。いわば保険のようなものである。

 しかし、保険と異なるのは、保証の買い手が、債権者である必要が無い点である。そのためCDSは、銀行などが融資債務者の信用リスクを補填するといった実需に基づく取引以外に、投機目的にも利用される。例えば、投資家は、債権者でなくともあらかじめ保証を買っておき、取引対象となる債務者の信用リスクの高まりに伴いプレミアムが上昇した時に、この保証を売ることで、収益を獲得することができる。

 政府や政府機関が発行する債券は、ソブリン債と呼ばれる。ソブリンCDSはソブリン債に対するCDSであり、国の信用リスク(破綻懸念)を取引対象とする。主にヘッジファンドや金融機関の自己勘定部門が、ソブリンCDSを投機目的に利用していると言われている。

 ソブリンCDSに対して分かれる見解

 CDS規制論者の中には、投機によるソブリンCDSのプレミアム上昇が、国債価格下落といった現物債市場に波及する恐れがあるとの見方がある。国債価格の下落は、当該政府の借り入れコスト上昇となるため、財政危機悪化の要因につながる。そのためヘッジファンドなどによるソブリンCDSへの投機的行動が、今回のギリシャ問題をはじめとする欧州危機を煽る役割を担ったと非難されることも多い。

 もっともギリシャ問題の発端は、ギリシャ政府が2009年10月に財政赤字見通しを大幅に上方修正したことにより、財政懸念が拡がったことにある。また、ドイツ金融監督局が2010年3月に、「CDSがギリシャ国債に対する投機に使用された証拠を市場データは示していない」と指摘しているように(*2)、『CDS悪玉論』はやや行き過ぎた見方なのかもしれない。

 
日本のソブリンCDS

 ギリシャ問題以降、日本のソブリンCDSのプレミアムは急激に上昇している。日本もギリシャ同様、財政懸念の高まりが燻っているのだろうか。最近発行された論文(*3)では、日本のCDSプレミアム上昇について「主要国のCDSプレミアムの間で、国際連動性が上昇しており、一部欧州諸国でのソブリン債に対する懸念が他の国にも伝播している可能性がある」ことが指摘されている。

 実際、日本のソブリンCDS残高は対国債残高で0.1%未満となっている(*4)。また取引の多くはヘッジファンドなど海外投資家によるもので、日本のソブリンCDSは投機筋の動向に左右されやすいとも指摘されている。そのため安直に“日本のCDSプレミアムの上昇=日本の財政リスクの高まり”とは言えないであろう。

 ただし、現状、対GDP比で200%に迫ろうとしている日本の公的債務残高は、健全であるとは言い難い。また、米格付け会社S&Pは、2010年1月に日本の長期国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げている。これらと、我が国のCDSプレミアム上昇との間に、関連性がないことを断定できる材料が揃っていないことも事実である。

 世界的にもまだまだ歴史の浅いソブリンCDS。現時点では、その取引の影響について意見が分かれている。今後、調査により実態が明るみになることが期待されるが、冒頭で述べたようにCDS規制化の流れは益々本格化するだろう。そのとき我が国のとる対応や、市場に与える影響は気になるところである。ソブリンCDSの動向に注目していきたい。

 
*1 CDSと保証は厳密には異なる部分もあるが、本コラムでは概説にとどめている。
参考:「クレジット・デリバティブのすべて」河合祐子・糸田真吾 (2005年)

 *2 Bloomberg 2010年3月8日付

 *3「ソブリンCDS:市場の現状と変動要因について」
(日銀レビュー2010年4月)、篠潤之助・高橋耕史

 *4 日本のソブリンCDSのネット残高は約4,000億円(米金融決済機関DTCC)。
一方、国債及び借入金の残高は3月末時点で約883兆円。



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